カンボジア内務省は7日、世界規模のオンライン詐欺に関与したとして、同国最大規模の華人系複合企業プリンス・ホールディング・グループの陳志会長(38)を逮捕したと発表した。同会長はカンボジア国籍を剥奪され、中国当局へ送還された。この逮捕は、国際的な詐欺組織による暗号資産を利用した資金洗浄に対する取り締まりが新たな段階に入ったことを示している。

史上最大規模の暗号資産マネーロンダリング

プリンス・ホールディング・グループは、カジノや不動産、金融など多岐にわたる事業をカンボジア内外で展開する巨大複合企業である。米国財務省外国資産管理局は2025年10月14日、同グループを「超国家的犯罪組織」として指定し、陳志会長を含む146の個人および企業体に対して広範な制裁を科した。

米国司法省によると、同省は捜査の一環として12万7271ビットコイン、約150億ドル(約2兆2000億円)相当の暗号資産を押収した。これは暗号資産史上最大規模の押収事案となり、ロンドンの不動産19件を含む広範な資産が凍結された。米当局は同組織を「アジア最大級の国際犯罪組織」と位置づけ、陳志会長を通信詐欺共謀罪およびマネーロンダリング計画への関与の疑いで起訴している。

米国金融犯罪取締ネットワークの分析によれば、プリンス・ホールディング・グループの関連組織は2021年8月から2025年1月の間に少なくとも40億ドルの不正資金を洗浄したとされる。詐欺の手口は、SNSを利用したロマンス投資詐欺において、カンボジア国内で少なくとも10カ所の詐欺拠点を運営するというものであった。詐欺で得た資金は暗号資産に変換され、複数の取引所を経由して洗浄された後、英領ヴァージン諸島、ケイマン諸島、モーリシャス、台湾、香港、シンガポールに設立した会社を通じて合法的な不動産投資などに転換されていた。

陳志会長は中国福建省出身で、2015年にカンボジアで太子集団(プリンス・ホールディング・グループ)を創業し、フン・セン前首相の顧問を務めるなど、政界に深く食い込んでいた。量刑は懲役40年に達する可能性があるという。

深刻化するオンライン詐欺と暗号資産悪用

米国の制裁発動後、国際的な包囲網が急速に構築された。香港警察は2025年11月4日、約27億5000万香港ドル(約354億円)の資産凍結を発表した。シンガポール当局は不動産6件、高級車11台、ヨット1隻を含む約1億5000万シンガポールドル(約115億円)の資産を押収している。韓国政府も同年10月、独自の金融制裁を発表し、資金凍結措置を講じた。

東南アジアでは近年、オンライン詐欺を巡る被害が深刻化している。米当局によると、カンボジアでは詐欺拠点の多くを中国系組織が運営しており、高収入につられて世界各地から集まった若者らが詐欺に加担してきた。米司法省の発表によると、数百人の人々がカンボジアで監禁され、暴力を用いて強制的に投資詐欺などに従事させられていた。

詐欺の主な手口は「豚の食肉解体(Pig Butchering)」と呼ばれるロマンス詐欺で、SNSなどを通じてターゲットにメッセージを送り、数カ月かけて信頼関係を築いた後、暗号資産投資を装って資金を盗み出すというものである。国連によると、強制労働の被害者は56カ国・地域に及び、2023年の東アジア、東南アジアだけでオンライン詐欺の被害額は最大370億ドル(約5兆7千億円)に上った。

2025年11月にはカンボジア東部の詐欺拠点で働いていた日本人13人が現地当局に拘束されており、同年5月にも日本人29人が拘束される事案が発生している。警察庁によると、2024年10月からの4カ月間で、カンボジアやミャンマーで犯罪に加担させられたり、渡航しようとしたりした人に警察が保護措置を取った事例は10件に上り、うち6件は10〜20代の若者であった。

暗号資産の資金洗浄手段としての悪用拡大

ブロックチェーン分析企業チェイナリシスの報告によると、2025年上半期の暗号資産サービスからの盗難額は21億7000万ドルを超え、2024年の年間被害額を既に上回った。同社は「暗号資産の盗難急増はエコシステムの参加者にとって差し迫った脅威である」と警告している。

チェイナリシスによれば、2025年の暗号資産を利用した詐欺による収益は少なくとも99億ドルに達し、より多くのデータが収集されれば過去最高の124億ドルに達する可能性があるという。Web3セキュリティ企業スカム・スニファーの報告では、2025年のフィッシング詐欺による被害額は前年比83%減少したものの、1件あたりの被害額は大幅に増加した。犯罪グループは小口ターゲットから高額資産保有者へと標的を移しており、11月には被害者1人あたりの平均被害額が1225ドルまで急上昇した。

プリンス・ホールディング・グループの事例が示すのは、暗号資産が詐欺の手段としてではなく、詐欺で得た資金の洗浄手段として悪用されている実態である。2019年、同グループは資金源の開示を拒否したことでマン島の銀行から口座開設を拒否されており、東南アジアとマン島の間でマネーロンダリングに関与していた疑いが浮上していた。

日本国内でも影響が広がっている。共同通信の報道によると、プリンス・ホールディング・グループは2022年以降、日本国内に少なくとも関連会社3社を設立していた。会社目的は不動産売買などとしており、犯罪収益の資金洗浄に用いられた可能性がある。2025年12月には、台湾当局に資金洗浄容疑で拘束された同グループ幹部が大阪に会社を設立していたことも判明した。

日本国内では、マッチングアプリやSNSで知り合った人から暗号資産の取引や投資を持ち掛けられ、トラブルになるケースが相次いでいる。金融庁は暗号資産交換業者の登録制度を設けており、利用者に対して必ず金融庁・財務局の登録を受けた業者かどうかを確認するよう呼びかけている。

ビットコイン市場への影響と今後の展望

今回の摘発は、ビットコイン市場にも大きな影響を及ぼしたという見方も多い。

「昨年10月のBTC暴落とプリンスグループ摘発には直接的な因果関係がある。米当局が同グループから史上最大規模の約12.7万BTC(約2.2兆円)を没収したことが引き金となった。巨額の資産が政府管理下に入ったことで強制売却への懸念と市場の動揺が広がり、パニック売りや強制清算の連鎖で価格が急落した」― @MossannExtreem

実際、ビットコインは2025年10月初旬に史上最高値となる約12万6,000ドルを記録した直後、急速に反落局面へと転じた。米国財務省が同月14日にプリンス・ホールディング・グループへの制裁と約140億ドル相当のビットコイン押収を発表すると、市場には政府による強制売却への警戒感が広がった。10月10日には、レバレッジポジションの強制清算が約190億ドル規模に達し、市場全体を巻き込む連鎖的な下落を引き起こした。

ビットコイン価格は10月の最高値から11月にかけて約30%下落し、12月には約8万7,000ドル台まで値を落とした。米国上場の現物ビットコインETFからは、10月10日以降、累計で52億ドル超の資金流出が確認されている。市場アナリストは、過去のビットコインサイクルを踏まえると、2026年9月前後にかけて大底を形成する可能性が高いと分析している。

一方で、トランプ政権による暗号資産友好政策への期待も根強い。米国政府は押収したビットコインを含む約20万BTCを戦略的備蓄として保有する計画を発表しており、テキサス州やフロリダ州など18州が独自のビットコイン準備金法案を進めている。市場関係者の間では、レバレッジが整理されたことで市場が健全な状態にリセットされ、2026年は長期投資家にとって最良の買い場となる可能性があるとの見方も出ている。

カンボジア内務省は中国当局との数カ月に及ぶ合同捜査を経て、2026年1月6日に陳志会長ら3人を逮捕し、中国に送還した。今回の逮捕劇は、オンライン詐欺で得た資金の暗号資産による洗浄という国際的な組織犯罪に対する各国当局の連携強化を示す象徴的な事例となったが、同時に暗号資産市場の成熟と、政府による大規模介入が市場に与える影響の大きさを改めて浮き彫りにした。